Vol.340:らぁ麺 Penguin


 今回取材をするのは広島市の人気店らぁ麺 Penguin」。市内屈指の鶏清湯が食べられるお店として多くのラーメンファンに支持されているお店だ。私が2022年4月に食べに来た時はまだランチがラーメン営業で、夜はお酒と一品料理を提供していたお店だった。あれから3年が経った今、色々と面白い話が聞けそうだ。「らぁ麺 Penguin高岡店主にKRK直撃インタビュー!


- ご出身は?

「広島県広島市です。」

 

- 元々ラーメンを食べるのは好きだったんですか?

「好きでした!」

 

- 飲食の世界に入ったのはいつ頃?

「飲食の会社に20歳頃から35歳までいました。そこから独立という形で居酒屋みたいなお店を駅西というエリアで始めて、それから幾つかのお店も手掛けていきました。今のこのお店も元々は自分で起こした会社の系列店だったんですけど、現在は他のお店を手離してこのお店1店舗だけをしています。ラーメンを出し始めたのはこのお店が初めてです。」

 

- ラーメンをするきっかけは?

「駅西でお店をしている時、真向かいが"広島らーめん たかひろ"というラーメン屋さんだったんです。当時、そのお店の大将と仲良くさせてもらっていて、その人の生き方とか佇まいとかがとてもカッコ良かったんです。頑固親父的なところ、人間臭さもあってとても憧れていました。それで次にどこかで新しいお店を出す時には自分がお店に立って、大将みたいにラーメンを作ってみたいなと思いました。」

 

- 自分ならこういうラーメンで勝負するとか頭の中にありましたか?

「尾道にミシュランに載った"またたび"というお店があって、尾道にあるんですけど東京から移住か何かで来られていて、煮干しと鶏みたいな東京のラーメンだったんです。そこで食べて『こういうラーメンを作りたいな!』と思ったのが最初でした。それから元々ラーメンは好きだったのでYouTubeとかでラーメンの作り方とか動画を見ていました。」

 

- 鶏醤油との出会いは?

「兵庫県尼崎市のロックンビリーS1さん(閉店)へ初めて食べに行った時に衝撃を受けました。自分は肉の中では鶏肉が1番好きだったし、こういう当時広島に全く無かったラーメンを自分で作れたらいいだろうなと思いました。ラーメン屋をしたいと思ったのはたかひろさんの人柄だったんですけど、どんなラーメンを作りたいと影響を受けたのはロックンビリーさんでした。」


2020年11月1日オープン(2022年撮影画像)


- それからコチラのお店で初めてラーメンに取り組んでいくんですね。

「当初は1店舗完結型の夜のお店で〆にラーメンというコンセプトだったんですけど、2020年11月のオープン時がコロナ真っ只中でした。オープンしてすぐに緊急事態宣言が出てお酒が出せなくなり、夜は19時までしか営業してはいけないとなりました。そんな状況になったので昼営業でやっていくしかないとなり、ラーメンだけを売るお店になっていきました。そうすると夜営業を再開しても昼営業だけのお店としての認識の方が大きくなってしまっていて夜はお客さんも少なくなり、それで現在は昼営業のみになりました。」

 

- 屋号「らぁ麺 Penguin」の由来は?

「二つありまして、一つは"ファーストペンギン"というベンチャー企業さんを讃える時とかに使う言葉からです。『群れの中で最初に海へ飛び込んで餌を取りに行く勇敢なペンギン』みたいな意味合いがあって、コロナ禍でオープンした時に自分が未経験な業態をするということと重ね合わせました。

 

 もう一つは、広島市内のラーメン屋には小鳥系という伝統の系譜があって、小鳥ではないですけど自分もそこに付随して少し仲間入りをしたいと思いました。」

 

- アルファベットにしたのは?

「発音から想起して、平仮名やカタカナだと可愛くなり過ぎると思いました。お店の内観のイメージは既にあったので、少しスタイリッシュなイメージでPenguinとしました。」

 

- 追い求めているのは清湯のみ?

「はい。僕がお店を始めた時には地鶏で作る清湯が広島市内には本当に無かったんですよ。」

 

- 今までなぜ無かったと思いますか?

「広島市内は陽気さんとか昔から愛されている系統が強いんです。僕はラーメンを始める前からずっと飲食業と携わってきて思っていたのは、多国籍料理とかハンバーガー専門店とか珍しいものが広島市内は定着しないということでした。岡山とか山口へ行けばハンバーガー屋さんとかあるんです。これは広島市の独特の食文化であるお好み焼きや広島風中華そば、広島風つけ麺とかのお店を愛して応援し続ける、地元愛の強い県民性が理由だと思っています。」

 

- 当時広島に無かった系統でオープンして、お客様の反応はどうでしたか?

「一番悔しかったのは業者さんがお祝いで食べにきてもらった時に、今でも忘れられないんですけど、帰り際に小声で『なんで豚骨じゃないんですか?』と言って帰られたんです。とてもショックでしたね。食べてもらっても尚伝わらないレベルのラーメンを出してしまったことと、九州寄りのこのエリアで豚骨以外を出すことの難しさを実感しました。絶対に頑張ってやるぞと思いました。残すお客様も多かったしなかなか難しかったですね。」



- 現在の商品の紹介をお願いします。

「それぞれに拘りがありまして、まずは水ですよね。ロックンビリーさんの店内のポップを見て、うちも逆浸透膜水を使わせてもらっています。雑味のないピュアな水から地鶏や食材本来の旨味を存分に引き出したいと考えています。スープはブロイラーを使わず、地鶏の旨味を全面に出したいと思って炊いています。現在は丸鶏3種とガラ2種です。やっぱりガラをメインで使うので"長州黒かしわ"の比率が高いですね。」

 

- 麺はどうされていますか?

「原田製麺(公式HP)で特別に造って頂いています。原田製麺は小鳥系の寿々女さん、陽気さん、広島風つけ麺の新華園さんとかの麺を造っている老舗の製麺所で、戦後の中華そばをラーメン屋さんと共に支えてきた製麺所です。この製麺所が僕の地元にあり、担当して頂いている専務さんが僕の一個上の先輩なんです。そういう関係もあって開業時から相談に乗って頂いていて、麺も使わせてもらっています。」

 

- Penguin向けの麺を特別に?

「僕がこういうラーメンをやりたいということを理解して頂いて、国産小麦でウチのスープにマッチする麺を造って頂いています。かなり無理を聞いてもらっているので感謝しかないです。」


2025年4月撮影


- 今年から商品リニューアルしたのは?

「昨年まで水鶏だったんですけど、今年からリニューアルということで水鶏一本をやめました。2020年にオープンした初年度は広島に無いものを取り入れようと頑張り、それから2〜3年は水鶏というものを少しでもクオリティーを上げようと思っていました。そして4年目で自分なりの、自分らしい商品を作っていきたいと考え始めました。」

 

- 何かきっかけが?

「僕が体調悪かった時に前田さん(塩そば まえだ店主)に助けてもらったことがあるんです。ウチの鶏スープと前田さんの魚介スープを合わせた塩ラーメンをしばらく出していたんですが、その時に前田さんのスープを僕が仕込ませてもらったんです。前田さんのスープはアニマルオフ(動物系ゼロ)なんですが旨味成分の量に驚きました。人間が感じる味覚の内の旨味、それが圧倒的にウチとは違うなと思いました。いくらタレで引っ張っても、水を綺麗にしても、鶏を強く炊いてもこの旨味は出ないと思いました。ウチのスープも旨味成分自体を上げないといけないなと思いました。」

 

- 4年間してきた商品のリニューアルに迷いは?

「鶏の清湯を作りたいという気持ちは変わりません。そこにもっと色んなモノの旨味成分を加えていきたいと思い始めて、今は魚介を少し入れてみたり、牛や豚で厚みを増したりとかを年明けから始めています。あくまでも鶏メインですが、温度が下がっていったときに旨味の含有量とかを感じてもらえたらと思っています。」

 

- まだまだ日々挑戦なんですね。

「はい。これは僕だけでは無いと思うんですけど、ずっと同じものを作っていたら行き詰まっていくと思うんです。飽きられる怖さもあります。続けていくためにはちょっとずつブラッシュアップしていくことが大事だと思って取り組んでいます。」

 

- 最後に高岡さんが一番大事にしていることを教えてください。

「自分もお客さんもワクワクする気持ちを忘れないようにしたいということです。ラーメンという専門職として最近僕が壁にぶち当たっているのは滞在時間の短さなんです。長く飲食業をしてきてお酒を飲むお店が多かったので、滞在時間が40分から2時間とかあってその中でどう満足をしてもらうかを考えていました。でもラーメンって滞在時間がめちゃめちゃ短いじゃないですか。その中でいかに満足してもらうかと考えたら、商品力の記憶が一番大きくなると思うんです。もちろん美味しいラーメンを作ることをずっと大事にしていきますが、それに加えてワクワクという要素を大事に考え続けていきたいと思っています。」


◆店舗情報

らぁ麺 Penguin

広島県広島市中区大手町5-16-1 たかのばしハイツ 1F

instagram https://www.instagram.com/ramen_penguin/

オープン日:2020年11月1日

 (取材・文・写真 KRK 令和7年4月20日)