Vol.316:つけめん 京蔵


 今回取材をするのは静岡県浜松市の人気店「つけめん 京蔵(きんぞう)」。2011年から浜松ラーメンシーンを牽引してきた実力店だ。初めて食べに来た時、店の外観、つけ麺に特化した商品構成、全てから店主の一本気な心が伝わってくるように感じられてとても深く印象に残っていた店だ。話すのは初めてなので、どんな話が聞けるか楽しみだ。「つけめん 京蔵」浅野店主にKRK直撃インタビュー!


- ご出身は?

「浜松です。」

 

- 昔からラーメンは好きだったんですか?

「一般的に好きなくらいで、そんなに調べて食べに行くではなくて近場で食べるくらいです。」

 

- ラーメンをするまでの経緯は?

「大学を卒業して普通に就職しました。学生気分が抜けないまま社会人になり、会社も辞めてしまいました。それからしばらくはお金が貯まったらテントを持ってバイクでツーリングへ行くという生活を長くしていました。全国いろんな所に行っていたんですが、ラーメンを食べるというのはほとんど無かったんです。当時はついでですら行かないほどラーメンにはまだ興味がなかったんです。そして28歳くらいに流石に何かしないといけないなと思いました。特にしたいことも見つかっていなかったし、得意とするものもなかったんです。」

 

- 何かしないといけないと思ってからは?

「その当時のバイト仲間が新宿の麺屋武蔵へ修行に行くと言ってきたんです。テレビにも頻繁に出ていた有名なお店でした。その話を聞いた時は『ラーメン屋になるくらいでわざわざ東京に修行しに行くなんて、こいつは何を言ってるんだ?』と不思議に思っていました。和食とか洋食とかじゃないのにと思っていたんですが、考えたらラーメン屋って自分でやったら面白いのかなと思い始めました。それで地元のラーメン屋で働いてみることにしました。それから数年後に東京の麺屋武蔵で働いていた友だちが浜松に戻ってきて『ラーメン屋をするから手伝ってくれないか?』と誘われて、そこで正社員として働くことになりました。」

 

- 当時、独立志望はあったんですか?

「当初は自分でできたらいいなと思っていたくらいでした。浜松の2店舗で経験を積ませてもらっている内に自分でもなんとなく色んなことができる気になってきていて、もし自分で店をするならどういうものが作れるのかなとか考え始めました。そしてこのままここにいても自分ではできないなと思い、それなら僕も東京へ行こうかなと思いました。その時はもう32歳になっていたので、もう何か動かないといけないと思いました。」


- 修行する店は悩みましたか?

「当時有名だった店を何軒か食べに行って、六厘舎の味が気に入ったので学びたいと思いました。募集しているか分からないので電話して経験者ですと言ったら入らせてもらいました。」

 

- 六厘舎に入ってどうでしたか?

「初日ですぐに今までやっていたこととの次元の違いに驚きました。作り込み方が全然違って、体力も使うし大変でしたね。数ヶ月経ってから味見もさせてもらうようになった時も、味覚的には自信があった方なんですけど、ここでも僕は全然分かっていなかったんだなと気付かされました。東京へ来ずに自分で店をしなくてよかったと思いました。」

 

- 大変な修行を乗り越えられた理由は?

「当時の現場は僕とは違って六厘舎愛が凄い人ばかりが集まっていました。僕は30歳を越えてからと遅くに入って『もう後が無い』という気持ちだったのでやれたと思います。もし若い頃に六厘舎へ入っていたら続かなかったと思っています。」

 

- 超有名店である六厘舎に残ることは考えなかったんですか?

「店長クラスまで上がった人は残る人と独立派と半々でしたね。僕は上に人がいるのが嫌だっただけです。」



- 自店は浜松ですると決めていたんですか?

「はい。地元浜松ですると決めていました。」

 

- 自店の商品は決めていた?

「浜松にはまだつけ麺がほぼ無かったので、つけ麺メインでと決めていました。オープン当初はつけ汁を麺にかけて食べているお客様もいたくらいですからね。」

 

- 屋号「つけめん 京蔵(きんぞう)」の由来は?

「麺屋とか色々考えたんですが、つけめんと付けた方が分かりやすいかなと思いました。京蔵は名前とは全く関係なく、自分の好きな漢字をピックアップして組み合わせて、読みやすいとか字画とかも考えたりしました。これで"きんぞう"と読むんですが、きょうぞうと読む人も多いですね。」

 

- オープンして順調でしたか?

「オープン時から忙しくさせてもらっていました。つけ麺だけであつもりもしていませんでした。茹で時間が13分くらいかかるのでラーメンもしてしまうとオペレーションが上手くいかなかったので、お客様をなるべく待たせたくないし、かと言って麺を細くできないし。それで券売機にはラーメンのボタンがあったんですが使わずに、つけ麺だけで営業していました。」

 

- 当時と今の違いは?

「基本は変わらないですが、随分変えているところもあります。僕は一つのことを極めていきたいタイプなんです。ウチのモットーは高いものを使わない。醤油や油にしろ一般的に売られているものを手間暇かけていかに美味しくできるかを大事にしています。」



- もうすぐ13周年ですね。

「ウチはドロドロベースでやっていて、夏場は食べ辛いとライトに調整したこともあったんです。しかしお客様はそういうのは求めていなくて『どうしたんだ?』と言われたこともあります(笑)。こっち側が勝手に調整してやったのが自己満足だったんだなと気付いたりしました。長くしていてもまだまだ気付かされることが多くあります。」

 

- つけ麺メインでしてきた難しさはありますか?

「つけ汁が冷めてきて嫌いという人もいて、僕も昔はそれが理由でつけ麺が苦手な時期もありました。食べ始めは美味しくても、最後ぬるくなってしょっぱくなって最後の感想が『美味しくなかった』じゃダメなんです。だから僕は最後に冷たくなってからも美味しいと思えるかに重点を置いています。試作して食べる時は沢山の量を冷たくなるまで時間をかけて食べて、お腹いっぱいの状態で冷たい麺を食べて美味しくなるかを考えて取り組んでいます。」

 

- 弟子はとらないんですか?

「僕は人を育てるのが苦手なんです。東京へ行った時も修行がメチャメチャ大変だったからこそ僕は突き詰めることができるようになったんですが、僕は同じことを下の子にそれができないんですよ。」

 

- 一番大事にしていることは?

「僕は高校や大学受験とか全部失敗して色んな挫折もあった人生だったので、承認要求が強いんです。自分の作る商品がお客様から『凄いな』と言ってもらえるのが嬉しいんです。だからそうあるためには、追求し続けていくことを大事に考えています。お客様に喜んでもらい、その結果、僕の承認要求へ繋がっていけばいいなと思っています。店を構えていて美味しいものを出すというのは当たり前。美味しいと言われるより凄いと言ってもらえるのが嬉しいんですよね。」


◆店舗情報

つけめん 京蔵

静岡県浜松市中央区雄踏1-12-21

オープン日:2011年4月23日

 (取材・文・写真 KRK 令和6年2月18日)