今回取材をするのは2023年6月に石川県金沢市でオープンした「金沢 麺つみき」。東京の有名店「麺処 篠はら」が北陸へ移転してきたお店だ。日本最大のラーメン激戦区「東京」でも屈指の人気店として知られていたお店の突然の北陸上陸には皆が驚いただろう。新天地での新たな挑戦へ歩み始めた篠原店主に色々聞いてみようと思う。「金沢 麺つみき」篠原店主にKRK直撃インタビュー!
- ご出身は?
「東京です。」
- 元々、ラーメンを食べるのが好きだったんですか?
「ラーメンだけが好きというわけではなくて、友達と何か食べに行こうとなった時にラーメンが多かったのかなと思います。」
- ラーメン屋をしようと思ったきっかけは?
「大学に入ってもやりたい事が見つからなくて、わざと単位を一つ落として四年生を2回したんです。その期間に自分が何をやりたいのかを色々考えていました。サラリーマンになってスーツを着て電車通勤とかは自分には無理だと思いました。その時によく友達と食べていたラーメン屋さんを思い出して、『ラーメン屋さんだったらできるかな?』と安易な気持ちで思いつきました。」
- 「ラーメン屋してみたいな!」という気持ちは以前から少しはあったんですか?
「いつから好きになったのか思い出せないんですが、大学の時に家でチャーシューを作っていたんです。」
- チャーシューだけですか?
「はい。ラーメンじゃなくて、チャーシューです。角煮とか焼き豚とか。料理というよりは肉料理ですね。チャーシュー作りがとても好きで、コンビニで売っているとみ田さんの冷凍つけ麺とか買ってきて、自分のチャーシューを乗せて食べるのが好きでした。」
- チャーシューから入ったんですね。
「チャーシュー作りがラーメンへの入門でした。その後、家でスープを自分で作るようになりました。当時はチャーシューだけが美味しく作れただけでしたね。」
- その時はいつか自分のラーメン屋をすると決めて動いていたんですか?
「まだ修行する前でしたが、一番最初の考えがラーメン屋で技術を身に付ける前に、まずはお金を貯めるのが最優先だと思っていました。それでコンビニとかを朝昼夜で掛け持ちして、大学にいる期間に貯金をしました。」
- それからラーメン屋でも学んだんですね。
「はい。都内の有名店で学ばせて頂きました。」
- 自分の店で作りたいラーメンはいつ頃に決まりましたか?
「昔は化調を使ったあっさりラーメンとか豚骨魚介、どっちも好きだったんですけど、蔦(Japanese Soba Noodles 蔦)を食べた時に感動して涙が出たんです。」
- 今まで食べてきたラーメンとは違ったんですね。
「当時は無化調がどうとか知らなかったんですが、涙が出る程の感動するようなラーメンを自分も作りたいなと思い、それから自分も無化調のラーメンを作るようになりました。もちろん脂っぽくてしょっぱくて化調が利いたラーメンも美味しいんですけど、蔦のラーメンだけはとにかく感動しました。蔦がまだミシュラン一つ星を獲る前でした。今、自分の店でトリュフを使っているのはその時の感動が影響しているんでしょうね。」
- 独立を決心したきっかけは?
「奥さんと出会ったことが大きなきっかけでした。結婚して翌年に"麺処 篠はら"を出しました。2015年の10月28日でした。」
- 池袋にしたのは?
「どこでもよかったんですが、あの場所が席数や坪数、家賃とかでちょうど良かったんです。地元がほぼ池袋だったので土地勘もありました。」
- そして2022年8月に建物の取り壊しのため閉店。取り壊しについてはいつ頃から聞いていたんですか?
「契約する時に聞いていました。最初に5年契約して、次に2年延長。次の延長は無いと聞いていました。」
- 東京に残ることも考えていたんですか?
「自分はどこでも美味しいものを作ればお客さんが来てくれると思っていました。当初は東京で出すということも考えていたんです。『さぁ移転しよう!』だったらたぶん東京で出していたんですけど、取り壊しでやめたくないのにこの場所から去らないといけないということに対して、自分の中では激しい気持ちがありました。それだったらこれを機に周りの目を気にせずにラーメンに集中できる環境で出店したいという気持ちが芽生えてきました。」
- 「ラーメンに集中できる環境」とは?
「東京にいると美味しいラーメンがあり過ぎて、美味しいラーメンに出会うと真似したくなっちゃうんです。良い意味でも悪い意味でも影響されてしまうんです。自分のラーメンを更新していても、更新したのにはどこかのお店の影響がやっぱりあったんです。東京時代はその比率が圧倒的にラーメン屋でした。ですが金沢に来てからは自分のラーメンと向き合う時間が圧倒的に増え新しいものができていっている感覚があります。」
2023年6月14日オープン
- 移転先に金沢を選んだ理由は?
「奥さんと相談して3つほど候補があった中から決めました。以前に金沢を旅行した時に、空が綺麗で空気が美味しいというとても良い印象が残っていました。奥さんは東京の人の多さがあまり好きじゃなかったようでしたから、金沢に来たら幸せになるんじゃないかなと思いました。」
- 繁華街から少し離れたこの場所を選んだのは?
「最初は駅近くで8席くらいの物件を探していたんですがなかなか空きが無かったんです。それで探しながら金沢で3ヶ月ほど住んでいる内に、地元の人や遠くから来てもらう人に長く通ってもらえる場所と考えたら、ちょっと郊外がいいのかなと思い始めました。それからこの物件と出会いました。」
- 屋号「金沢 麺つみき」の由来は?
「東京での屋号を使わないことは最初から決めていました。ラーメン屋さんなので『麺』、そして『つみき』は色んな食材で旨味を積み重ねるという意味合いです。語呂というか、麺処つみきでもないし、麺屋つみきでもない。"麺つみき"がビタっとはまったんです。そして、僕にとって『金沢』という名前が重要でしたので金沢に拘って物件を探しました。やっぱり仙台とか旭川、県より有名な都市ってあるじゃないですか。金沢も誰もが知っている都市名ですからね。
もう一つの理由は、これはあんまり言っていないんですが、屋号に奥さんの名前も含まれているんです。『麺処篠はら』の時もそうでしたが、思い入れのある名前が入っている方が店を潰しちゃいけないという気持ちが強くなると思っています。」
- 金沢で提供する商品は悩みましたか?
「当初は東京時代の延長でどうせ変わっていくだろうなという考えだったんですけど、物件探しなどで約1年間経ってから同じレシピで作った時、全く美味しくなかったんです。」
- 同じレシピでもですか??
「水もπウォーター(有害物質除去・ミネラル配合・pH中性・弱アルカリ性の軟水)なので地域性は関係ないんです。このままじゃいけないなと思い、それからスープを劇的に変えるわけじゃなく、醤油ダレをだいぶ調整しました。今まではバシッと決めた黒めのラーメンで麺もちょい硬めだったんですが、金沢で試作した時に以前使用していた麺が美味しくなかったんです。それで麺屋棣鄂の人に電話して『麺の粉とか、何か変えましたか?』と聞いたんですが何も変えていないとのことで、その時に手数が増えた盛り付けに変えたことで食べる時にはベストの状態ではなかったことに気づきました。それで麺屋棣鄂さんに相談して新たに提案してもらった麺が、今レギュラーで使っている麺です。」
- 開店までに色々大変だったんですね。
「醤油ダレを変える時、盛島さん(らぁ麺や 嶋 店主)や岩本さん(中華そば四つ葉 店主)に電話して相談にも乗って頂きました。今までは再仕込み醤油でガーンとする醤油ダレしか作ってこなかったので、とても助かりました。」
- 名店の店主ばかり!心強い知り合いがいるんですね。
「店の外の『らぁ麺や』という看板は、"らぁ麺や嶋"盛島さんに許可をもらって真似しました。そして"中華蕎麦にし乃"水原さんには『山椒らぁ麺を金沢で販売してもいいですか?』と聞いて、味は全然違いますけどメニューに取り入れたくて。あとは自分が蔦で感動したトリュフも入れたかったのでメニューに加えました。やっぱり美味しいものを作る人、沢山のお客様を満足させている人、自分が感動するものを作っている人、自分にないものに長けている人に対して尊敬の念が強くて。そして話して良い人なら、その人とずっと仲良くしていきたいなと思っています。」
- 地域で好まれる味とかも意識していますか?
「麺を変えて醤油ダレもガラッと変えたので、石川県の美味しい醤油を使いたいなと探して、大野醤油の直源さん(公式HP)の本物の醤油(もろみの雫)と出会いました。金沢は甘めの醤油が文化としてあるので、金沢で好まれている味に近づけるために砂糖を足したりとかは嫌でしたから、昆布や鮭節を足したりしてちょっと甘い風味を加えました。」
- 商品の紹介をお願いします。
「お腹を満たすだけでなくて、食べてて楽しいラーメン、感動するラーメンを作りたいという気持ちがあります。だからトッピングを同じ種類をただ増やすだけではなくて、数種類を使っていたりします。あとは丼の手前から食べると味が色々変わっていくように、盛り付けを工夫したり、香味油を部分的に多くしたり少なくしたりしています。昔は"いかいしり(イカ魚醤)"を手前にビターズボトルでビュッとしていたんですが、今は直源さんの"もろみの雫"を提供直前に丼の手前と中心辺りにスプレーしています。最初フワッと醤油が来て、表面には手前にだけ鶏油をかけて、他はカメリアラードです。単調が続く味にならないように、鶏脂が無くなってからスープのダシが来て、ラードが食べ応えに繋がるように工夫をしています。」
- 聞いているだけでゴクッと想像してしまいますね(笑)
「ラーメンってやっぱり多少のコラーゲン質を入れないとすっきりし過ぎてしまいます。だからスープには鶏と豚、乾物はイリコ、宗田の荒削り、鰹節、鮭節、昆布を使っています。そして後味の余韻のために浅利とか蜆の旨味を加えています。複雑な旨味で食べててコク深くて満足度の上がる味。
ラーメンを作る上で大事にしていることは、あっさりしているけど食べ応えある味。二つの合間見えるものを目指している部分があります。例えば自分がもしコッテリラーメンを作るとしたら、スープを全部飲めるこってりラーメンを作ると思います。」
- 自分のやりたい味で進んでいっているんですね。
「やっている内に変わっていくかもしれませんけど、今したいことはこのラーメンです。でも自分が美味しいと思っているものをレギュラーメニューとして出しているので、今後、何かをきっかけに『こってりラーメンって美味しいな!こってりでお客様に喜んでほしいな!』とかなったらメニューを変えてしまうかもしれません。そういう可能性はゼロとは言い切れないですね。」
- 肉から入門した方なので、肉盛など凄い拘りが伝わってきますね。
「3種類のチャーシューを乗せていると謳っていても、全部低温調理とかだと違いがわからない場合があるじゃないですか。ウチのだと見た目も柔らかさも、部位も味付けも違うので違いが明確です。肉は自信ありますね!」
- 最後に篠原店主が一番大事にしていることを教えて下さい。
「お客様が幸せになり自分達も幸せな環境が1番いいなと思います。他店と比べて高価格な方ではありますが納得、理解して下さるお客様との良い関係が良い客層に繋がり、良い店ができてくると思うんです。
仕込みが簡単で数を捌いて売れるラーメンは自分にはやっぱり作れなくて、手間暇かけた感動できるラーメンを作りたいんです。自分の価値観と同じように、『これだけ入ってこの価格なら安いよ』と納得して下さるお客さんは絶対にいると思っています。もし自分が食べる側と考えたら、チャーシュー1枚で900円より、1200円でチャーシュー3種類に味玉など乗っているラーメンの方が絶対に満足度が上がると思っています。」
◆店舗情報
金沢 麺つみき
石川県金沢市天神町1-18-4
X:https://x.com/mendokoroshino
instagram:https://www.instagram.com/kanazawamentsumiki/
オープン日:2023年6月14日
(取材・文・写真 KRK 令和5年11月1日)