今回取材するのは滋賀県草津市の人気店「博多とんこつ 真咲雄」。店主は多くのラーメン職人を輩出している名門「天神旗」の一番弟子として2009年に独立開業した方だ。私はオープン時から10年以上ずっと通っているが、今でもやっぱり豚骨を食べたくなると草津のこのお店が真っ先に浮かんでくる。それほど替えの利かない存在のお店だ。「博多とんこつ 真咲雄」坪井店主にKRK直撃インタビュー!
- ご出身は?
「長崎です。高校卒業して就職で大阪へ出てきました。大阪へ来た理由は関西弁を喋りたかったんですよ!それだけの理由でした(笑)。大阪はやっぱり楽しかったんですが、自分に合った仕事になかなか巡り合わなかったですね。」
- ラーメンは好きだったんですか?
「大阪に来てからの当時の趣味がギャンブルとラーメン食べ歩きでした(笑)。だからギャンブルで勝った日はラーメンが豪華になっていましたね。」
- 当時、どんなラーメンを食べていたんですか?
「いろんなジャンルのラーメンを食べていました。正雀の"とっかり"とか吹田の"秀吉ラーメン"とか食べていましたね。」
- ラーメン屋をしたい気持ちは?
「食べる側から作る側になってみたいなと興味はありました。それで当時は電気会社に勤めていたんですが、夜はラーメン屋でアルバイトを始めました。ラーメン屋さんがどんな感じなのかを知りたかったんです。それで実際にラーメンを作らせてもらうようになってくると楽しかったですね。」
- 本格的に作る側に向かうきっかけは?
「半年くらい昼は電気屋さん、夜はラーメン屋さんという生活をしていました。そして衝撃的なお店に出会ったんです。上新庄の天神旗というお店です。当時はSNSも無いのであんな辺鄙な場所にある天神旗をそれまで知らなかったんです。」
- 天神旗が他店と違った理由は?
「変な表現ですけど『丼で会話する』みたいな感じでした。目に見えない、聞こえない、丼だけで何かを感じましたね。『あ〜、この人(大鶴店主)は本物だ!』と思い、自分が今まで食べてきた博多ラーメンの中で一番美味いと思いました。」
- その時の坪井さんの気持ちは?
「もう次の日にお店へ電話しました。アルバイトでなく弟子として入りたいと伝えたんですが、今は弟子はとっていないと断られました。でもあきらめられず二、三日経ってからもう一回電話して『一回話を聞いてください』とお願いしました。それで面接をしてもらえることになりました。」
- 面接では?
「親方(大鶴店主)のラーメンに対する拘りとかも聞いてさらにここで働きたいと思いましたね。こういう豚骨を突き詰めた人の下でやりたいと思いました。それで僕の気持ちも聞いてもらって弟子として入らせてもらえることになりました。」
- 天神旗に入ってどうでしたか?
「ビックリしましたね。リアルに豚骨、頭の骨や背骨、生の肉とかリアルに見れて『ここからするんだ!』と驚きました。そして大変だったのはスープ以外はレシピがあるんですけど、スープのレシピが無いんです。見ても聞いても分からないんですよ。だから自分で覚えろという感じでしたね。一年くらい経って実際作らせてもらうようになっても特にスープが命のお店なので作り手のセンスや想い、技量がモロに出てしまうんですよね。何度も『もう俺はセンスないわ。やっていけないわ!』と挫折しかけたこともありました。」
- 天神旗では何年?
「約6年お世話になりました。弟子入りして4年経った頃に独立したいことを伝えていました。」
- 自店の場所は悩みましたか?
「最初は大阪の吹田辺りでしようと思っていたんですが、親方から『大阪で自分の家賃とお店の家賃の両方を払っていくなら、都会から離れた所で土地を買って家を建ててする方がいいんじゃないか?』とアドバイスを頂きました。」
- 滋賀へ来た経緯は?
「大阪から離れて京都も都会。電車に乗って京都を越えて行くと滋賀に突き当たるんです。滋賀にはそれまで来たことがなかったんですが、不動産屋さんに相談していろいろ紹介してもらっていると大阪に比べて凄く安かったんですよ。それで大津から彦根まで全部見て、雪の降らない所という条件で野洲市より下でお願いして今の土地と出会いました。」
- ここを見に来た時、不安とかは?
「場所柄、不安しか無かったですね(笑)。でも大鶴さん、そして今も取引している博多の麺屋さんの社長の2人共が『お前、ここ最高やないか!』と言ってくれたんです。それでここに決めました。」
- オープンまで順調でしたか?
「天神旗に務めながら、家を建ててオープンまでの準備を進めていました。実際に試作を始めると水が違うんですよね。対する塩分濃度も違ったので作る時は塩分濃度を特に気にしました。こっちの水で作る方が美味いんです。仕上がりも全然違いました。」
- オープン時に提供した商品は?
「最初は自分流にアレンジなどせずに、まずは基本ありきなので天神旗で学んだラーメンをそのまま出していました。」
- 屋号「博多とんこつ 真咲雄」の由来は?
「おじいちゃんの名前なんですよ。漢字は当て字で自分が考えたものです。親方も博多豚骨だし、僕も博多豚骨しかやりませんから。今まで清湯を取ったこともないですから。」
- 坪井店主の一番大事にしていることは?
「大鶴さんが口癖のように言っていた言葉を頂いて厨房の壁に書いているんですけど、『金持ちより人持ち』。若い時はその意味があまり分からなかったんですけど、最近はその意味が少し分かってきました。味も大事ですけど、人が大事。スタッフさん、お客さん、両親も大事。一人でここまでやってきたわけでなく多くの人に支えてもらっている。だから恩を返すこと。裏切らないこと。嘘を言わないこと。人間性が味に出るんですよね。味を突き詰めるだけでなく、人間力も突き詰めたらもっと美味しくできるはずと思っています。」
- オープンして14年。今思うことは?
「滋賀に来て良かったなと思います。最初は『わ〜、ど田舎やな〜』と驚きましたけど、この土地で多くの人に支えてもらったからこそ14年間やってこれましたから。」
◆店舗情報
博多とんこつ 真咲雄
滋賀県草津市穴村町250-6
公式HP:http://www.ramen-masao.com/
twitter:https://twitter.com/anamuratonkotsu
オープン日:2009年10月6日
(取材・文・写真 KRK 令和4年3月20日)