岐阜の名門「白神」から新たな卒業生が2018年5月に独立開業した。屋号は「麺切り 白流」。これまでの卒業生のお店も美味いだけでなくそれぞれ個性が立っているお店だが、この白流もまた凄いことにチャレンジしているお店だ。その日の仕入れによって変わる日替わりの焼き干し、例えば前回来た時には「イトヨリ80xカタクチイワシ20」、そして今回は「サケ(焼)100xサザエ(活)20」。そして合わせているのが自家製の超多加水麺。ここまで振り切ったことに毎日チャレンジしているお店なので、当然、店主がどんな方なのか知りたくなってくる。
今回、某雑誌の東海総合GPに選ばれたと聞いて、今が最高のタイミングだと取材をする時間を作っていただいた。"麺切り 白流"森下店主にKRK直撃インタビュー!
- 出身は?
「岐阜県の白川村です。」
- ラーメンを食べるのは好きだったんですか?
「そうですね。飛騨高山といえば高山ラーメンというのがありまして、ラーメンは身近な存在でした。地元の白川村にもラーメン屋が何軒かありました。」
- ラーメン屋をやろうと思ったきっかけは?
「大学で東京に出た時に最初に食べたお店で衝撃を受けました。一条流がんこラーメンです。それからどっぷりラーメンが好きになり、いろんなお店で食べ歩きをするようになりました。そして食べ歩いている内に『自分でもいつかできたらいいな!』と思うようになりました。
当時の東京は第二次、第三次ラーメンブームで、ご当地ラーメンやテレビチャンピオンとか始まった頃です。あの時代に東京にいれたというのが今のウチのラーメンの礎になっています。」
- ラーメン屋を自分でしたいと思ってからは?
「大学を中退してからパン屋で働いていたんですが、小麦アレルギーになりまして辞めざるはえなくなり、それからフレンチイタリアンのダイニングバーでコック見習いとして3年ほど働いていました。ラーメン屋をやりたいって想いがずっと心のどこかにありまして、その前にいろいろ経験したいなという気持ちでした。」
- 本格的にラーメンをしようと動いたのは?
「30歳で地元の岐阜に戻ってきて、ラーメン屋をやろうと決意しました。まずは地元のラーメン屋で働き始めました。」
- それから麺屋白神ですね。
「自分で作って自分の店を出したいというのが目標だったので、地元のチェーン店ではなく、もっと学べるお店で修業したいと考えていました。
当時、岐阜でいえば麺屋白神というのが一番有名でしたし、僕は白神の"えびそば"が大好きだったんですよ。それで白神で働きたいという想いがあったんですが、如何せん小麦アレルギーだったので、白神さんは自家製麺をしているので躊躇していたんです。ある時、友人から『とりあえず行くだけ行ってみろ!』と背中を押してもらって、白神さんでお世話になることになりました。」
- すんなり入れたんですか?
「実はイロドリの木村くんが先に採用になっていたので、僕は1年くらい別のラーメン屋で働きながらチャンスを伺っていたんです。ちょうど1年後に空きがでまして、白神さんに採用していただきました。」
- 当時の白神で一緒に働いていたのは?
「麺喰店主、かたぶつ店主、あらき軒店主、イロドリ店主、全員と一緒に働いていました。僕はその中でも最長の7年3カ月お世話になりました。」
- 念願の白神で働いてどうでしたか?
「思っていた通り、得られることは多かったです。特に石神社長から得られることはとても多かったです。ラーメンだけでなく、ラーメン以外のこと。ラーメン界のネットワーク、人脈などをいろいろ紹介していただきました。ラーメンというのは作るだけでないということを学べました。」
麺切り 白流(2018年5月8日オープン)
- お店の場所は悩みましたか?
「地元に戻ってというのも考えましたが、白川村の人口は1800人ほど。いくら観光地といってもやはり厳しいので、それで師匠から『まずはこっちでして、それから地元でもいいんじゃないか?』とアドバイスを頂きました。」
- 瑞穂市を選んだのは?
「岐阜駅周辺か、もっと田舎、その二択で考えていたんですが、岐阜駅周辺は希望の物件が見つからず、それで瑞穂市で物件を探しました。高校3年間、白川村から出てきて下宿して住んでいたのが瑞穂市だったたので、思い出がいっぱいある場所なんです。いろいろ探して、一軒家で駐車場もあるのでここに決めました。」
- 屋号の由来は?
「まずは"麺切り"から決めました。自家製麺のイメージ、そしてどこにも無い名前ということで決めました。それから"白"を使いたいというのが絶対にありました。白川村出身、白川村の白山という山、雪景色が白、麺屋白神の白、白神出身であるというのがすぐに分かる屋号。今までの卒業生に無い、白神の屋号から一文字もらう流れも僕から作っていけたらなという気持ちもありました。」
- "流"は?
「"白"に付ける言葉が全く浮かばなくて、石神社長にお願いしたんです。それで"白竜"というのを最初に提案していただきました。画数的にもいい屋号だということでした。しかし芸能人に白竜さんがいますので検索した時とかに被ってしまう。その後、仕事をしながら"白流"という言葉が閃いたんです。『流?流れる。面白いな!』と思ったし、画数も白竜と同じ。白神流という意味も込めて、白流に決めました。」
- 自店のラーメンを考える時に影響を受けたのは?
「白神で学んだことをベースに、東京で衝撃を受けた一条流がんこ。そして食べ歩いて感動した白河や喜多方のラーメンの影響から、ぜひ岐阜で多加水麺をしたいと思いました。がんこ、東北のラーメン、白神、この3つを融合させたラーメンをやりたいと決めていました。」
- 日替わり焼干しでしようと思った理由は?
「元々は焼干しを飛魚や東北の焼干しを使おうと思っていたんですが、調べたらとても高価なので地元の人しか使えない。それでどうしようかと考えていた時に、そういえば石神社長はよく自分で焼き干しを作っていたなって思い出し、自分で作ったらいいなと思いました。でも同じものを毎日供給するのは難しいだろうなと思った時に、一条流がんこラーメンが出てきたんです。がんこラーメンは日替わりで海老、蟹、あんこう、スッポン。僕は今でも2カ月に1回は食べに行っているんです。それで思い切って日替わり焼干しでいこうと決めました。決めたのはオープンの3カ月前くらいでしたね。」
- 大変なことに毎日チャレンジしているんですね。
「同じものが作れないというくらい、焼干しだけでなく、貝や蟹、煮干し、節もあるので組み合わせは無限大です。ホントに大変なんですよ(苦笑)。常に美味しいものを作らないとお客様は納得してもらえないので、毎日、仕込みの段階で緊張しています。仕入れは魚屋さんに任せているので、魚屋さんが来て箱を開けてみるまで何が来るのかも分からない。毎日、何が来たか確認してからスープのイメージ、量を考えていきます。魚の量、種類を見て、量があれば100入れたり、どう考えても淡泊過ぎると思ったら何か他のと合わせてとか味のイメージを考えていきます。
白神で毎日のように限定をさせてもらっていたので、その経験が今に生きています。これをレギュラーメニューにしている以上は、美味しいのを毎日100杯は作らないといけない。お客様の評価もありますのでとてもプレッシャーを感じています。」
- 現時点のベストと思うのは?
「ウチの一番人気商品は天然鯛100です。本当の天然鯛でなかなか無いラーメンです。お客様も分かっていらっしゃるので、前日告知とかになるんですが駐車場が溢れるくらいになりますね。」
- 超多加水麺のきっかけは?
「白河や喜多方は40数%手打ちでするので加水が多くなるんですけど、ウチの麺はもっとインパクトが欲しかったので加水率53%です。加水を上げればいいってことでもないんですけど、日本で一番加水高い麺を目指して、尚且つ美味しい麺、どこにもない麺を作りたかったんです。」
- モーニングラーメンもしているんですね。
「オープンする前に喜多方に行った時、"喜一"というお店で塩を食べたんです。それがめちゃくちゃ美味しくて感動したんです。喜多方って醤油のイメージだったんですが、多加水麺がその塩スープに絶妙に合っていたんです。それでウチでも多加水麺で塩をやりたいと思いました。喜一さんが朝9時から営業だったので本当はウチも9時からしたいんですが、なかなか難しい(笑)。それでウチは10時からしています。」
メニュー(2019年11月5日時点)
- 森下店主が大事にしていることは?
「日替わりということで、毎日美味い一杯を仕上げること。これを一番大事にしています。遠方から来られる方にとってはその一杯がウチの味になりますので一期一会。毎日が真剣勝負です。がんこフリークがベースで、白神で学んだこと、東北のエッセンス、それがウチの一杯です。」
<店舗情報>
■麺切り 白流
住所:岐阜県瑞穂市森860-1
公式HP:https://www.mengiri-hakuryu.com/
twitter:https://twitter.com/mengiri_hakuryu
instagram:https://www.instagram.com/mengirihakuryu/
オープン日:2018年5月8日
(取材・文・写真 KRK 令和元年11月5日)