夜の街って印象の強い十三エリアに、一軒のラーメン店がある。屋号は"ばっこ志"。口当たりがまろやかなクリーミー豚骨で大人気の店だ。以前は「知る人ぞ知る!」って人気店だったが、ここ数年で鶏白湯専門"ぼっこ志"、そして牛骨専門"ぶっこ志"と次々と展開していっている。特筆すべきは使用してる食材は違えど、一口食べると、いやビジュアルでもう"ばっこ志系列のラーメン"と一目瞭然なことだ。
多種多様に拡がりを見せているラーメン界で独自の個性をきっちり打ち出していて、そしてどの店にも行列を作りだしているのが凄い!新店オープンしたばかりで多忙な中、話をする時間を頂いた。"ばっこ志"吉田店主にKRK直撃インタビュー!
- 出身は?
「岐阜です。19歳くらいに大学進学で大阪へ出てきました。」
- 大阪で?
「理系だったのでロケットを作る人になるはずだったんですが、受験に失敗してしまったんです。それで予備で受けていた文系の大学の方へ行きました。それから『将来、何をしよう』って考えた時に、『とりあえず社長になりたい』って思いました。社長になるためには『会計をしないといけないかな?』って思って、卒業後、そのまま大阪で会計事務所に就職しました。」
- 何の社長??
「その時点では何の社長になるかはまだ決めていなかったんです。会計事務所で働いてる内に、『ラーメンかカレーがいいかな?』って思うようになりました。当時、ラーメンやカレーを食べるのがすごく好きだったんです。当時はラーメンがこんなに関西でブームになるとは思っていなかったですね。関西でも有名なラーメン屋ってあんまり無い頃でしたから。ちょうど一風堂が大阪にオープンした頃です。」
- ラーメンとカレー、最初に選んだのは?
「最初、『ラーメン屋で働いてみよう!』って思いました。それで昼は会計事務所で働いて、夜は大阪の一風堂で働かせてもらっていました。やってる内に『ラーメンの方が面白そうだ!』って思うようになりました。もしカレーを最初にしてたら変わったかもしれないけど(笑)。ラーメンは面白かったし、かっこいい!って思ったんです。当時作ってた方が現在のまんかいの社長さん。その方の下で2年ほど働かせてもらいました。でも、あくまでも昼間の会計事務所での仕事がメインでしたがね。」
- ラーメンが楽しくなってきて?
「やってる内にどんどん『ラーメンがいいな!』って思い、会計事務所の仕事を辞めて、ラーメン屋一本でやっていこうって決心しました。一風堂で働かせてもらっていて、『いけるだろう?』って思ったんです。当時、一風堂がとても流行ってたので毎日、凄い杯数が出ていたんです。それで『僕もいけるだろう』って勝手に思ってしまっていました。一風堂では接客がメインで、作るのは少ししてた程度ですね。だから修行してたってわけでなく、『働いていた』って言っています(笑)。」
- そして独立開業へ?
「試作とかして、1年くらいで開業しました。平成14年に庄内で"濃熟深味工房 志"って店を始めました。」
- "志"では、どんなラーメンを?
「豚骨です。"ばっこ志"の前身って感じでしたね。」
- 屋号の由来は?
「特に拘って考えたってことではないんです。僕の名前、吉田裕志の"志"。でも当時、10何年前のことですね。PCで"ラーメン"と"志"で検索してみたんですよ。すると幾つかHITしたんです。それで『漢字一文字って分かり難いな』って思い、もし2号店をするなら、その時はちゃんと考えようって思ってましたね。 」
- "志"をオープンして?
「全然駄目でしたね。一回、何かの雑誌で紹介してもらった時にちょっと売り上げ上がった頃もあったけど、ずっと駄目でしたね。でも僕は『いつか売れる』って勘違いしてたので(笑)。"志"は7年ほどしていました。」
らーめん ばっこ志(2007年12月オープン)
- そして"ばっこ志"オープンですね。
「平成19年に2号店として始めたのが、"ばっこ志"です。」
- 屋号の由来は?
「麻雀してる時に"ずっぽし"とか言葉使うんですが、僕らは『ばっこし入った』とか言ってたんですよね。それで『ばっこしっていいな』って。それに後付けで最後の文字を"志"にしました。なんか濁音が使いたかったんですよね。当時、一風堂がプロデュースした馬力屋って店があって、『濁音かっこいいな~』って思ってたんです。」
- 十三での反応は?
「最初から悪くなかったですよ。評判は良かったです。あの頃は世間一般のラーメンって言えば豚骨がメインでした。塩ラーメンとかまだ全然流行る気配がなかったですから。あの時思ったのは『場所が変わるだけで、こんなに評価まで変わるんだ!』ってこと。やってることは"志"の時と同じ。お客さんが一気に増えたのは駅近ってことも関係あると思います。当時、『場所は関係ない』ってラーメン界では言われてた時代だったけど、僕は『それを言う人は一部の人なんだな』ってその時、思いましたね。」
- 豚骨?
「他は考えてなかったですね。『豚骨を極めよう』って思っていました。塩といえばあす流さん、Wスープと言えば洛二神さん、あれと言えばってなると強いんですよ。そうなることって大事だと思うんです。 」
らーめん ぼっこ志(2014年2月12日オープン)
- 次は"ぼっこ志"のオープンになりますね。
「大阪の鶏白湯ブームが始まるずっと前に、鶏白湯で新店って構想はあったんです。でもなかなか行動に出れなくて。豚骨の方もまだ売れてなかったし、次の店に動くには自信もなかった。資金もなかったし、人もいなかった。途中で結婚したってのもあるので、『勝負に出る』ってのも躊躇していました。昔、"志"で5年間くらいずっと全然売れなかった時代があったので、『ばっこ志もどうせ売れなくなるんだろうな』ってネガティブに考えてしまっていた。そうしてる内に鶏白湯ブームが来てしまって(苦笑)。」
- 屋号は?
「もう悩みたくなかったので、濁音使って、グループ店舗って分かる条件。それでバ行で考えていって、『お~、ぼっこ志いける!』って(笑)。」
らーめん ぶっこ志(2016年7月11日オープン)
- 最新の店"ぶっこ志"は?
「ずっと前、15~16年前頃かな?その頃に牛骨がちょっと流行ったことがあったんです。当時、流行ってた店で食べてみたんですが、あまり好みじゃなかったんです。それで使命感みたいではないけど、『僕ならもっと美味しいものを作れる』って勝手に思っていました。それからずっと牛骨をしてみたかったんです。その時の思いがやっと今になって実現できました。時間かかり過ぎですね(笑)。」
- 今後の展開は?
「飲食店を始めたのは「いつか海外に店を出したい」ってのもある。ゴールってよりは、もう1つのスタートですね。今は日本のラーメン屋もどんどん海外に出ていってるしチャンスだと思っています。日本をちゃんとしてから、海外に出ていけたら。人それぞれ、仕事に対して一番求めるものは何だ?って考えると、お金、ブランド、やりがいの3つに分かれると思うんです。海外に関しては"やりがい"が半端ないのかなって思っています。」
- 希望の国は?
「憧れはアメリカ出店ですね。数年前にLAもちょっと視察に行ってきました。ただ、東南アジアのどこかに出店だといろいろ便利なんですよね。海外出店に関しては誰にも言わないでいたんですが、今はもう『言わないとやらないな』って思ったんです(笑)。僕は社長としては残念な社長ですけど、第一優先は自分がワクワクすることをしたいって思っています。」
- どう動いていく?
「僕は4番バッターになることをやめた時から、生き残りを考えるようになった。最前線にいてあまり目立ったら駄目。流行れば流行るほど過去の人になりやすいんです。僕はかなり安定志向で一か八かの勝負はあまりしたくない。海外に行くとしても、帰ってくる場所が安定していないといけない。爆発的な人気よりは、一定数安定して売れるのを大事にしたいんです。」
- SNS?
「売れてないならもっとSNSとかするべきだけど、今は必要性を感じない。『ブログくらいはした方がいいかも?』って思うんですけど。」
- 限定メニューとかは?
「昔は限定もけっこうしてたんですよ。それが勉強にもなってたし、『こんなのできる!』って顕示欲もありましたし。でも、最近はどの店も頻繁にやるようになってきて、これって時代なんだなって思いました。だったら『ウチは時代の人になったら駄目だ』って思い、止めることにしました。」
- 社員教育は?
「これからですね。最近は定期的に店長会議とかしています。各店長=経営者って形にしていかないといけない。僕の下ってことでなく、売り上げだけでなく、社員トレーニングとかも各店長からしていかないといけない。店長会議でも『会計とは?』とか経営者、数字を見る方法を教えていっています。ウチは独立希望のスタッフも多いですね。」
- 人を育てる難しさは?
「僕は売れてなかった時代が長かったので慎重なんです。従業員は目立ちたいって気持ちがある人間もいます。そしてそれを止めるのは難しいって気持ちもあるんです。昨年、京都の野菜のイベントに初めて参加したんですが、それに向かって動いてる従業員がとても楽しそうだったんですよね。基本的にラーメン職人なので毎日コツコツと作っていってもらわないといけない。派手なところばかりを見るってことになってほしくないんです。」
- 大事に思ってること?
「もちろん今でも僕の欲望が一番。僕がワクワクすることをしたい。次に大事なのが従業員。家族と一緒。従業員のために頑張ろうって考えると、頑張れる。僕を支えてくれてるのが従業員。従業員の幸せを考えていきたい。 」
<店舗情報>
■ばっこ志
店Twitter:https://twitter.com/bakkoshi
公式サイト:http://cplus.if-n.biz/5001521/
(取材・文・写真 KRK 平成28年7月)